ふたりのドラマは、やさしくアナーキー
テリー・ギリアムが“フィッシャー・キング”の伝説をモチーフに描く大人のファンタジー。
過激なトークを売り物にする人気DJのジャック(ジェフ・ブリッジス)。ある日、彼の放った不用意な発言がきっかけで銃乱射事件が起こってしまったことから、彼の運命は大きく変わる。
3年後。地位も名誉も失ったジャックは失意のままにレンタルビデオ店を経営する恋人のアン(マーセデス・ルール)の世話になり、ヒモ同然の生活を送っていた。ある夜、ホームレス狩りの若者に襲われたジャックはパリー(ロビン・ウィリアムズ)という奇妙なホームレスの男に救われる。パリーは聖杯を探す使命を神から与えられたとジャックに語り、彼に手助けを求める。最初は嫌がっていたジャックだったが、パリーの身の上を知り、やがて彼の力になりたいと考えるようになるのだが─
なんとまぁ。テリー・ギリアムがこんなホンワカした作品を撮るとは。KOROちゃん、びっくり。テリー・ギリアムを好きな監督のベスト5に挙げておるミーですが、この作品を観たのはけっこう最近だよ。似非ギリアムファンのKOROデス、オウヴォワール。それじゃ、そういうことで〜。
はい、またも短小感想で済ませようとした。星8つ付けてるのにどういうことだよ。朝、目覚めたら神の啓示のように「フィッシャー・キングが観たい」という思いに駆られて速攻でDVDを購入したのに、なんなんだよ。
え〜と。ミーの貧弱なボキャブラリーでは、この作品の素晴らしさを陳腐な表現でしかお伝え出来ないからデスわ。「感動した」とか、「珠玉のドラマ」というありきたりな言葉しか浮かんでこねぇよ。どの感想もチープで泥臭い文章ばかりですけどね。どうも感動モノを素直に表現する力がとんでもなく欠けている気がする。お下劣表現なら大得意なんだが。気を取り直して。
まず、ジェフ・ブリッジスがすこぶるイイ。ジャックの落ちっぷりがサイコー。グダグダでボロボロな姿がやたらとサマになっておりマス。ビシッとキメたジャックも捨てがたいが、落ちぶれた姿はさらにヨイ(ポニーテール除く)。辛口で自信過剰なジャックが一瞬にして地獄に叩き落された時のあの目。偶然出会ったはずのパリーが3年前の出来事で自分と繋がっていると知った時の悲痛な叫び。世間では過小評価されておるようですが、ジェフ・ブリッジスはいい役者だと思うよ。…褒めてるワリにはよくカート・ラッセルと間違えるがな。
ロビン・ウィリアムズは相変わらず巧い。他の作品ではその巧さがクドくて、どっちかというと苦手な役者なんだが、この作品での彼はホントにいい。奇妙だけど、とても純粋なパリー。だけど、その笑顔からは想像出来ない過酷な出来事を経験している。ミーはパリーが恋するリディアの部屋の玄関前で愛の告白をするシーンで号泣しましたよ。冷静に考えてみるとストーカー気質バリバリの告白なんだが、彼の真っ直ぐで一片の曇りもないキラキラしたおメメに免じて許すッ。ムサいパリーが白馬の王子様に見えてくるから不思議ですねぇ。ミーもリディア同様、ちょっと病んでる女の子ちゃんなんでしょうか。女の子ちゃんというのは虚偽報告になるが気にしない。
あらすじでは触れてないけど、パリーが恋するリディアという女性を演じているのはアマンダ・プラマー。「ガープの世界」ではほんのワンシーンにしか登場しないが、強烈な印象を持った覚えがある女優。あとは「パルプ・フィクション」くらいしか出演作品は知らないが、あのストレンジっぷりがたまらん。この作品でも不器用でちょっとおかしなリディアを見事に演じてた。彼女のどこか精神を病んでいそうな危うげな表情に妙に惹かれてしまう。さすがのロビン・ウィリアムズも彼女には喰われてる気がした。恐るべし、アマンダ・プラマー。
アンを演じたマーセデス・ルールはこの作品での演技が評価されてアカデミー助演女優賞を獲得しておりマス。スゲェいい女だし、どいつもこいつもイカレポンチな人間ばかりのこの作品で唯一、まともな人間のアン。言葉は悪いが意外と純情で見かけとは違って昔気質のアンにも涙を搾り取られたが、助演女優賞を獲ったのは驚き。KORO的には「ケープ・フィアー」のジュリエット・ルイスに受賞して欲しかった。ジュリエット・ルイスを盲目的に愛してますから。
あぁ、大して内容にも触れてないのにダラダラと書き綴ってしもうた。聖杯伝説をモチーフにしたニューヨーク恋物語デス。うむ、ちょっと違う。駅でのダンスや赤い騎士登場シーンなどはモロにギリアム色だが、“聖杯伝説”を現代に蘇らせた当作品は贖罪と魂の救済をユーモアと悲哀を織り交ぜながらロマンスたっぷり描いた大人のファンタジー。マンハッタンの夜空に輝く星も捨てたもんじゃない。ハッピーエンドっていいと思える作品。
1991年/アメリカ/137分/監督:テリー・ギリアム
THE FISHER KING
2010.02.27記