カイロの紫のバラ

1930年代半ば、大恐慌の波がまだ鎮まらない不況のニュージャージー。失業中の夫モンク(ダニー・アイエロ)の横暴さに耐えながら、セシリア(ミア・ファロー)はレストランのウェイトレスとして働き、生活を支えていた。ろくに働きもせずに博打に女に酒、挙句はセシリアに暴力を振るう夫、レストランでの仕事でもヘマばかりでセシリアは日々の生活に疲れきっていた。そんな彼女の唯一の楽しみは映画館でしばし現実を忘れて映画の世界に浸ること。今、夢中になっているのは「カイロの紫のバラ」という映画。登場人物である冒険家のトム・バクスター(ジェフ・ダニエルズ)に一目惚れしたセシリアは何度も映画館へと足を運ぶ。5回目を観に来たある日、スクリーンの中のトムがなんと彼女に話しかけてきた。「君、また来てくれたんだね!」

話しかけてきただけではなく、もっとセシリアと語りたいとトムがスクリーンから飛び出してきたことで大騒ぎに。「カイロの紫のバラ」はストーリーが中断。共演者はオロオロ、観客はパニック。ハリウッドからプロデューサーや配給会社の重役までやって来る大騒ぎになるが、そんな周囲をよそにトムはセシリアにご執心。やがてトムを演じたギル・シェバード(ジェフ・ダニエルズ)もスクリーンから飛び出してきたトムを説得するためにやって来るのだが…


1985年の作品。ロマンスものは苦手ジャンルのKOROですが、この作品は大好き。スクリーンから登場人物が抜け出てくるという、なんともファンタジーな展開ですが違和感なく受け入れられるし、なんといってもミア・ファローの演技が素晴らしい。横暴な夫に耐え、貧しい生活を必死に支えようとするセシリア。辛く貧しい日々の生活に疲労感満載の彼女の暗い顔。そんな彼女が唯一の楽しみである映画を観ている時の表情がホントにいい。この表情こそ映画を観ている人の顔だっていうのがストレートに伝わってくる。まだ映画が大衆の数少ない娯楽であったであろう1930年代。きっと、みんなセシリアのような顔でスクリーンを見つめていたんだろうなぁ。

セシリアの衣装も質素ながら可愛い。1930年代のファッションがミア・ファローのスリムな体型にマッチしていて人妻ながら可憐。KORO的にミア・ファローはべっぴんさんでもないし、ダイナマイッな体型でもないのでお好みの女優ではないが、この作品の彼女は大好き。

トムがスクリーンから抜け出してからの展開がこれまたいいのよ。トムがセシリアにぞっこんですよ。トムを演じたギル・シェパードも騒ぎを収めるために駆けつけるワケですが、ミイラとりがミイラになっちゃいますよ。なんてステキなの。憧れの銀幕スタァが自分に恋しちゃうのよ!夢見る少女ちゃんの憧れのシチュエーションじゃないですか!まぁ因みにミーがこの作品を観た時は既に夢見るユメコちゃんではなかったワケですが。それでも少しは憧れたぞ!ミーの当時の憧れのスタァはダスティン・ホフマン(え?)だったのでダスティンがスクリーンから抜け出してきたら一も二もなく逃避行だぞッ!と意気込んだわよ。ミーの変な意気込みはともかく。トムとモンクが言い争うシーンでのセシリアの台詞がいい。彼女がただ現実から逃避する手段として映画を観ていたわけではなく、ちゃんとそこから学びとっていたものがあるというのが伝わってくる言葉に胸を打たれる。

ラストは決してハッピー・エンドではないし、セシリアを取り巻く環境が変わったワケでもない。むしろ今までより厳しい。けれど映画館にいるひと時は彼女の表情は輝いている。「カイロの紫のバラ」に代わって上映されているダンス映画を見つめるセシリア。暗い表情の彼女の顔が徐々に晴れやかになっていくラスト・シーンに思わずこちらも笑顔になってくる。現実は楽しいことばかりじゃないけれど、辛い時や悲しい時は慰めてくれる沢山の素晴らしい映画があるじゃないかと静かに語りかけてくれる。ウディ・アレンが贈る映画を愛する大人のためのファンタジー。
1985年/アメリカ/82分/監督:ウディ・アレン
THE PURPLE ROSE OF CAIRO

「今度の映画はアステアとロジャースだよ」
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