クレイマー、クレイマー

「ママ!パパといっしょにいて…」

結婚8年目にして突然、妻から離婚を宣言された夫。幼い息子と共に2人での生活を始めるが…。

マンハッタンに暮らすテッド・クレイマー(ダスティン・ホフマン)は仕事一方のサラリーマン。仕事に追われ、自宅へ帰り着くのはいつも午前様。ここ最近は妻のジョアンナ(メリル・ストリープ)や一人息子のビリー(ジャスティン・ヘンリー)と会話すらなくなっていた。その日も遅くに家に帰るとジョアンナが冷めた表情で彼に告げる。「別れたい」と─。テッドの制止も聞かずに出て行くジョアンナ。

はじめは冗談だと思っていたテッドだったが、翌日になっても妻は帰ってこず、はじめて事の重大さに気づくテッド。その日を境に生活は一変する。家事と育児と仕事に追われる日々。順調だった仕事にも支障をきたしはじめていく。家にまで仕事を持ち帰る羽目になるが母のいない寂しさからビリーはテッドの邪魔をするかのように振舞う。今まで忙しさにかまけて育児は妻に任せる一方だったせいもあり、ビリーとの生活はまるで噛み合わない。はじめは憎み合っているような関係のテッドとビリーだったが、やがて2人だけの生活にも徐々に馴れ、今までに感じることのなかった絆を感じあうようになっていく。しかし、ある日思いもかけないことが起こり、父子2人の生活に暗雲が垂れ込める─


作品がはじまって2分後には泣いていた。メリル・ストリープの母性溢れる表情にいきなり涙を搾り取られた。ビリーを寝かしつけながら「愛してる」と言うジョアンナ。「ボクも愛してる」と答えるビリー。「明日の朝、また会おうね」と無邪気に言うビリーの言葉に一瞬、決意が揺らぐジョアンナの表情にいきなり泣いた。あんた、なんで出てっちゃうんだよ〜!ミーはご幼少の頃から親子愛のお話には滅法弱い。もうこの作品がはじまってすぐに号泣。ジョアンナがビリーに宛てた悲しい手紙をテッドが楽しい内容であるかのように読んであげるシーンでも号泣。涙で曇ってスクリーンが見えませんッ。さすがにあの手紙はないだろ、あんな手紙を送られたら子供心は激しく傷つくぞ。決してヒドイことを書いてるワケではないが、「じゃ自分はママにとってなんなの?ホントに愛してくれてたの?」と思っちゃう。

今まで猛烈社員だったテッドは突然の妻の離婚宣言に戸惑う。しかし戸惑ってばかりはいられねぇ。さぁ朝食だと張り切ってキッチンに立ったのはいいが、やたらと「楽しいだろ?」と息子に言いながら慣れない朝食作りのシーンは鬼気迫るもんがあったなぁ。スゲェまずそうなフレンチトーストだな、おい。ムチャ胃に悪そうなコーヒーだな、こりゃ。息子に「フレンチトーストはこんなのじゃない」と言われたり。今まで会話らしい会話もなかった父と息子の生活はギクシャクとしたもの。そりゃ、そうだ。息子が何年生かも知らないような父親だったんだもん。

会社では副社長からまたとない昇進の話を切り出され、張り切るテッドだけれどやはり家事と仕事の両立は難しい。それでもなんとか必死に息子と協力しながら生活していきます。ようやく2人での生活に落ち着きが出だした頃、ビリーの身に災難が。そんなところへ1年以上も連絡のなかったジョアンナが現われる。そして間の悪いことにテッドも○○。穏やかな父子2人の生活は大きな転換を迎えることになってしまう。

離婚と養育権という社会問題を描いた当作品の公開当時はまだまだ幼かったKOROなので、メリル・ストリープ演じるジョアンナが身勝手な母親に思えて仕方なかった。けれど10数年後に観直してみるとまた受ける印象が変わってた。あの冒頭に見せたジョアンナの揺れる表情。やっぱり彼女は心からビリーを愛していた。だから、ラストの選択になったのだと思う。彼女が見せる母性溢れる表情に心を打たれた。もちろんテッドを演じるダスティン・ホフマンの演技も見事。仕事一方だった時の顔、ジョアンナに出て行かれた直後の顔、ビリーとの生活に絆を感じ始めた時の顔。劇的ではないが、徐々に彼の表情が父性に満ちた顔になっていってる。そしてビリー役のジャスティン・ヘンリー。わずか8歳ながら感情を抑えた演技を見せてくれますよ。母親を恋しがって泣き喚いたりするワケでもないのに、ビリーの母恋しという気持ちがヒシヒシと伝わる我慢の演技にむせび泣いたよ。ビリーがこっそり母親の写真を箪笥に隠してるシーンはボロボロ涙がこぼれた。なにかを見つめているジョアンナの横顔の写真。きっとビリーが一番、ママの写真の中でキレイだと思ってるものなんだろうな。

ラスト間際、朝食のフレンチトーストを手際よく作るテッドとビリー。会話はなくとも2人の心が繋がっているのが判る。じっと父を見つめるビリー。淋しげに、けれどせいいっぱいの笑顔を見せるビリー。そんな息子に優しく笑顔で応えるテッド。…ムリです、涙なくして観れるかッ。ハンカチじゃ足らんわ。バスタオル持って来いッ。

主な登場人物は3人だけで大きな事件が起こるわけでもなく、単に夫婦の別れ、親子の別れを描いただけといってしまえばそれまでの話なんだが、テッドもジョアンナもビリーも失ってしまったものはあるけれど、かけがえのないものも見つけたというのを説教臭くならずに語っているこの作品は何度観ても考えさせられてしまう。3人を見守るような優しく丁寧なカメラワークが素晴らしい。冬のニューヨークの風景がとても効果的に使われているのもいい。愛するが故の選択。ラストは唐突すぎる終わり方の気もしなくはないが、2人の交わす少ない言葉のやりとりに思いやりを感じられてKOROはあの締め方で良かったと思う。
1979年/アメリカ/105分/監督:ロバート・ベントン
KRAMER VS. KRAMER

「ボストン、ブルックリン」
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