ドラキュラを題材にした世界初の映画化作品でホラー映画の元祖ともいえる作品。
ドイツのブレーメンで不動産業を営むジョナサン・ハーカー(グフタフ・フォン・ヴァンゲンハイム)はレンフィールド(アレクサンダー・グラナハ)という男の頼みでブレーメンに新しい屋敷を探しているという富豪のオルロック伯爵(マックス・シュレック)に会うためにトランシルヴァニアへと向かうことになる。だが、ハーカーの愛妻ニーナ(グレータ・シュレーダー)は夫の旅立ちに悪い予感がよぎる。伯爵の住む屋敷へ向かう道中で立ち寄った旅籠で村人から伯爵の屋敷は危険だから行ってはいけないと警告を受けるハーカー。翌日、屋敷へ辿りついたハーカーを出迎えた伯爵は姿はあまりにも異様だった。禿頭に痩身、そして長い爪。実は彼は人の生き血を吸う吸血鬼だったのだ─
なんでも監督のムルナウはブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」を原作に映画を製作する予定だったが、版権元から映像化の権利を得られなかったとか。そのため、「ドラキュラ」というタイトルは使えずに「ノスフェラトゥ」に、ドラキュラ伯爵の名前もオルロック伯爵に変更されておりマス。
ついでに本作の正式な上映時間は93分だが、ミーが観た廉価版DVDは79分。パブリックドメイン作品なんでネットでも観ることが出来るが、ネット上で観たのは84分だった。廉価版DVDは1929年のアメリカ公開の際にぶつ切りにされてしまったバージョンらしい。…道理で話の筋がいまいち不明瞭だったワケだ。おかげでネットにUPされてた動画を観直したぞ。BGMも全然違ってて驚いたぞ。ブラム・ストーカー未亡人に告訴されたこともあって様々な経路を巡りめぐるうちに幾つかのバージョンが作られてしまったようですわ。前置きが長いぞ。感想はどうした。
え〜と。感想はと申しますと。はっきり言ってそれほど怖くはない。雰囲気を楽しむ作品。昔の作品なので撮影技術は今観ると稚拙かもしれんが、影の扱い方に工夫がされており、なかなか楽しめた。特にストーリー後半のニーナに忍び寄るノスフェラトゥの細長く映った影が恐怖心を煽る。ノスフェラトゥを演じるマックス・シュレックの不気味な存在感がいいですな。ハーカーが指を切って血を流した時の表情と動作が素晴らしい。正に吸血鬼。ほとんどメイクしてないらしいが、ホントなのか?
それと名前がこれまたいいね。シュレックってドイツ語で恐怖って意味らしい。本名なのかは不明。なにしろ昔の俳優さんだし、日本で観ることが出来る出演作品はこの作品だけみたいだが、本国ではコメディ作品などでも活躍した俳優らしいですわ。…あの顔でコメディ?ナイトメアもんだな。
不気味なノスフェラトゥですが、ブレーメンに到着したシーンだけはとんでもなくマヌケだった。棺を抱えてコソコソ歩くノスフェラトゥに「風を起こしたり、扉の前で消えたり出来るのに、どうして棺は自前で運ぶんだよッ」と軽くツッコんでみました。あれには当時の観客も失笑したんじゃないかなぁ。
現代の人々がイメージする吸血鬼ってけっこうロマンティック要素があると思うんだけど、当作品の吸血鬼にはそんな要素は一片もナイ。禿頭でガリガリに痩せた鼠のような顔、長く伸びた爪。「インタヴュー・ウィズ・ヴァンパイア」に出てくるトムちん吸血鬼とか「トワイライト」のような美少年吸血鬼が好きな人には「こんなハゲのおっさんが吸血鬼なんて有り得ないわよッ」と絶叫するかもしれません。妖しい美しさなど微塵もなく、ただ不吉で悪魔的な容貌。多数の○○○を従えて○○○と共にブレーメンに現われるオルロック伯爵は死の象徴そのもの。お耽美吸血鬼像とはかけ離れているが、ある意味吸血鬼の本質を体現していると思う。
芝居がやたらとオーバーアクションなのはサイレント作品なので仕方ないので目を瞑るが、ぶつぎり編集のせいか所々で状況説明がいい加減だったのが惜しいトコロ。古い作品なのでもちろんモノクロだし、サイレントでもあるので、かなりとっつき辛い作品だと思いますが、吸血鬼映画を語る上で重要な作品であるのは確か。パブリックドメイン故、お気軽に鑑賞出来るので機会があれば是非どうぞ。
1922年/ドイツ/79分/監督:F・W・ムルナウ
NOSFERATU: EINE SYMPHONIE DES GRAUENS
2010.03.06記