疑惑の影

大好きな叔父さんが未亡人殺しの犯人かもしれない?平凡だが幸せな家庭の中で日々、1人疑惑に苛まれるニュートン家の長女チャーリー。淡々と描かれる家庭生活とチャーリーと叔父の心理を巧みに描写したヒッチコック作のサスペンス・スリラー。

カリフォルニア州サンタローザ。その町で暮らすニュートン家の長女、シャルロット(テレサ・ライト)は叔父のチャーリー(ジョゼフ・コットン)に憧れていた。父母が弟への親しみの意味をこめてシャルロットに“チャーリー”という愛称を授けてくれたせいもある。幸せだが退屈で平凡な毎日に嫌気が差し、チャーリーはニューヨークに住むチャーリー叔父さんへ遊びに来るように電報を出しに行くが、なんと叔父さんからも来訪を告げる電報が届いていた。「テレパシーだわ!」と躍り上がるチャーリー。やがてチャーリー叔父さんが列車に乗ってやって来た。家族全員に暖かく迎えられる叔父さん。家族全員にお土産を渡す叔父さん。チャーリーへのお土産はエメラルドの指輪。美しいお土産に有頂天のチャーリーは思わず歌を口ずさむ。しかし、彼女がその歌のタイトルを言おうとした時、叔父さんがグラスを倒してちょっとした騒ぎになってしまう。寝る前に叔父さんの部屋に挨拶にいったチャーリーはふとしたことで今まで見たことのなかった叔父さんの恐ろしい形相を垣間見てしまう。なにかが、おかしい。

やがてチャーリーの見えない疑惑は形となってくる。家庭調査員としてニュートン家の取材にやってきた2人の調査員は実は刑事でチャーリー叔父さんに未亡人殺しの容疑がかかっているというのだ。大好きな叔父さんが殺人犯?刑事の一人に好意を持ったチャーリーは半信半疑ながらも調査に協力することになるが…


ヒッチコック作品として異色な作品。金髪のクール・ビューティも出てこないし、洒落っ気たっぷりの台詞もない。かといって「サイコ」や「レベッカ」のような背筋が寒くなるような恐怖感が突き抜けているかというとそんなワケでもない。しかし徹底的にカメラワークに拘った映像は余計な台詞を廃し、映像だけでストーリーや登場人物の心理を表現しております。

ヒッチコック作品の中でも地味な作品だが、ミーはかなり好きな作品。効果的に使われる「メリーウィドウ」の曲。直接的なショック演出はなくとも、数々のキーワードをちりばめたシーンがサスペンス要素を盛り上げております。大好きな叔父さんがたとえ殺人犯であっても無事に逃げおおせて欲しいと願うチャーリー。しかし叔父さんを追ってきた刑事のジャックにも好意を抱き始めた彼女は激しく葛藤する。やがてある出来事からチャーリー自身の身に危険が及ぶ。計算しつくされたカメラワークと脚本。テレサ・ライトの名演もあいまってこの辺りのチャーリーの心理的変化が非常に印象的。

オーソン・ウェルズ作品の常連であるジョゼフ・コットンがヒッチコック作品に登場するのは違和感だが、じわじわと本性を露わにしていく辺りは見事。冒頭の胸に手を当てベッドに横たわるシーン、サンタローザの駅の重々しい空気感。チャーリー叔父さんの心の内が何の説明はなくとも映像だけで充分に伝わってくる。

派手な要素はなくとも終盤まで途切れることなく続く緊張感に脱帽。ヒッチコックも自身の作品で最も好きなのはこの作品と語っていたとか。
1942年/アメリカ/108分/監督:アルフレッド・ヒッチコック
SHADOW OF A DOUBT

「冒頭の列車内でトランプをしている後姿でヒッチおじさん登場」
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