すべては最後にお話しします――
アメリカ・メイン州に浮かぶ小さな島、リトル・トール・アイランド。富豪の未亡人ヴェラ・ドノヴァン(ジュディ・パーフィット)の屋敷で住み込みのメイドとして働くドロレス・クレイボーン(キャシー・ベイツ)は、ヴェラ殺害容疑で拘留される。一人娘でニューヨークでジャーナリストとして活躍しているセリーナ(ジェニファー・ジェイソン・リー)の元に未亡人不審死の新聞記事と「キミのお母さんでは?」と書かれた匿名のFAXが届く。事件を知り、久しぶりに故郷に帰るセリーナ。10数年ぶりの母との再会。だが、母娘との間には深い溝があった。20年前にもドロレスは夫であるジョー(デイヴィッド・ストラザーン)殺しの容疑で不起訴になった過去があった。母の犯行ではないかと疑ったセリーナは母との触れ合いを拒絶し、半ば逃げ出すように島を離れ、お互いに連絡もまともに取り合わないままでいたのだ。
ジョーの死に関して未だにドロレスを疑っているマッケイ警部(クリストファー・プラマー)が今回も事件を担当することになり、執拗にドロレスを追求する。しかし無実を主張しながらも、事件の詳細には口を閉ざし続けるドロレス。母は未亡人を殺したのか。そして父も手にかけたのか。娘に対しても一切、事件のことを語ろうとしないドロレスに苛立つセリーナ。
20年前の日食の日。2つの事件の真相はその日に隠されている─。
この作品は主演のキャシー・ベイツの鬼演技ぶりが凄まじい「ミザリー」と共に寒い季節になると思い出す作品。あちらのようにキレた演技をご披露はしないが、こちらのキャシー・ベイツも怖い。抑えまくった演技が逆に怖い。20年以上にも及ぶ夫殺しの疑いに耐え、黙々と働くドロレス。安い賃金で口うるさく異常に神経質なヴェラに長年仕えてきたドロレス。彼女を支えているのは、なんなのか。夫の死の疑いにもヴェラ殺害の容疑にも頑なに口を閉ざすのは何故なのか。媚びもせず、弁解もせず、逃げ出すこともせずに、彼女は何を守ろうとしているのか。物語が進むにつれ、そんな彼女の心情が徐々に判ってくる内に震えマシタよ。○○は強し。原作者のスティーヴン・キングがキャシー・ベイツを念頭に置いて書いたというだけあって、正にハマリ役。
娘役のJ・J・リーの演技にも参る。美しく、才能もある彼女だけれど、何故か男性関係においては上手く立ち回れないセリーナ。彼女は暗い過去の記憶に怯え、それから逃げ出そうとしている。酒と精神安定剤に頼る日々。事件を知って、気が進まないまま故郷に帰るも、心の中では母を許すことが出来ていない。母と共に数年ぶりに戻った実家。寒々としたその家には楽しかった思い出と忘れたい記憶が混在してセリーナをますます苦しめる。父の死について母を疑いながら、問い詰めることが出来ないセリーナ。そうすることによってもっと傷つく自分がいるから。消してしまいたい過去が心の奥底から蘇ってしまうから。そんなセリーナの葛藤が観ているこちらにも伝わってきて、ミーまで寒々とした気分になりマシタ。セリーナの陰鬱オーラは尋常じゃない。
マッケイ警部を演じたクリストファー・プラマーも素晴らしい。執拗にドロレスを、そしてセリーナに食い下がるマッケイ警部を実に憎たらしく演じておりますよ。トラップ大佐がこんなにクソ根性の悪い爺になるとはKOROちゃん驚きですよ。ドロレスにお○○のお○○引っ掛けられても仕方がないデスよ。黙ってりゃ、実にセクスィな爺なのに。
主要人物の三つ巴の演技が静かに火花を散らして2時間余りもの間、一時も目を離すことが出来ない。出番は大してありませんが、ヴェラ役のジュディ・パーフィットもいい。ヴェラが冷たい女主人から、一人の悲しい女になった時のあの表情。「○○は哀しい女の味方よ」という台詞に背筋が凍りマシタわ。
直接的な表現は一切なく、主人公達もあからさまな台詞を吐くこともないけれど、それぞれの心情が痛いほど伝わってきて、非常に見応えのある作品でした。ドロレスの茶目ッ気にセリーナがほんのちょっとだけ微笑むラストシーンも秀逸。
1995年/アメリカ/131分/監督:テイラー・ハックフォード
DOLORES CLAIBORNE
2009.12.13記