ザ・フライ

怖がってください―とても、とても怖がってください―

1958年に公開された同名映画のリメイク作品。監督はデヴィッド・クローネンバーグ。

物質転送と遺伝子組み換えの研究をしている科学者セス・ブランドル(ジェフ・ゴールドブラム)は、エレクトリック展覧会の会場で知り合った女性編集者ヴェロニカ・クエイフ(ジーナ・デイヴィス)を自宅兼研究室に招き、研究中のテレポッドを披露する。テレポッドとは物質転送装置で、物質を解体と再生することにより遥か離れた場所に移動出来るという画期的な発明だった。ヴェロニカはスクープ記事にしたいと申し出るが発表するには時期尚早とセスはその申し出を固辞する。無機物の転送には成功していたが有機物の転送は成功していなかったのだ。はじめは変人じみたセスに奇異の目を向けるヴェロニカだったが彼の真面目な研究態度に徐々に興味を抱き、やがてベッドを共にするようになる。しかし、ある晩セスはヴェロニカと元恋人の仲を疑い、酔った勢いで自らの肉体を実験台として転送を行ってしまう。実験は成功するが、セスは知らなかった。その時、彼と共に一匹の蝿がテレポッドに入っていたということを…


え?公開時のキャッチ・コピーって「怖がってください―とても、とても怖がってください―」とかだったの?淀長さんが考えてあげたのか?「とってもとっても怖い作品です。さぁ、この作品を観てごらんなさい。なんとも怖い、なんとも知れん、けれども怖さの中に悲しい〜悲しい〜お話が詰まっておるんですね。監督はデヴィッド・クローネンバーグ。「ビデオドローム」いうなんともエゲツない、なんとも怖い映画を撮った人ですね。ですからね、この作品も怖いですねぇ。はい、ゆっくり怖がってくださいね。また後でお会いしましょうね」みたいな。長いよ。そんなクソ長いキャッチ・コピーねぇよ。公開当時に観たような気がするんだが、そんなキャッチ・コピーだったかは記憶にナシ。

しかし、なんだ。オリジナルの「蝿男の恐怖」もこの作品の後に観たワケですが、これは古典的SFホラーの名作。かくも美しくメランコリック。妻役のパトリシア・オーエンスという女優の気品ある美しさによるところが大きいとは思うが。理想的で平和な家族の生活が徐々に蝕まれていくサマに打ち震えマシタ。で、クローネンバーグ版。こちらもスンバラシイ作品には間違いない。悲しい恋愛映画ですよ。ミーはラストで号泣したね。デモ、クローネンバーグだけにエゲツないほどにグロテスクでもある。この作品を観たら、しばらく肉は食せマセンよ。え?ミーは全然、無問題っすよ?だって「ハンニバル」を観たあとで牛丼を食した女ですから。多分、レバ刺しだってOK。

ミーの不感症ぶりはおいといて。まず主役の2人が素晴らしいです。演技もだが、その前にとにかくキャラが濃い。焼肉定食に酢豚定食追加で!みたいな。そして人間山脈。2人とも濃いはデカいは。190センチ超えと180センチ超えのカップル。お近づきになりたくありマセンッ。ジェフ・ゴールドブラムのおかげでジーナ・デイヴィスが小柄でカワイイ女性に見えてくるから不思議ですケドね。いや、実際にこの作品のジーナ・デイヴィスはカワイイ。ジェフ・ゴールドブラムのまんま昆虫チックな風貌と怪演ぶりがあまりに見事で彼女の印象が薄くなってるような気がするが、なかなかどうして。かなりの好演です。愛する人の変貌を止められないヴェロニカの心情を見事に表現しています。

それにしてもセスの変身ぶりが凄まじい。いや、確かにハエ男になるワケだからグロになるとは思うが、グロすぎますッ。そしてクローネンバーグ作品なので相変わらずセックス・シーンに悦びが感じられマセンッ。蝿と同化してしまったことにより、セスは異常なまでにセックスが強くなるんだけど、その時のヴェロニカの「どうしちゃったの?」という、悦びより不安の方が大きい表情が忘れられマセン。「コイツの相手をしてたらいつか死ぬ…」みたいな。そしてその時に発見してしまう恋人のある変化…。序盤はそこまでグロいシーンはないけれど中盤辺りから加速度的にグロさが増していく。そして悲しみも。

グロだ、グロだと書いてるけれど、決してこの作品はそれだけではない。根底には愛がある。悲しすぎる愛。セスが変身していく自分の身体に戸惑い、苦悩する姿に胸が締め付けられる。こんな姿になっても恋人は自分を愛してくれるだろうか。いや、きっと離れていってしまう。ただ無様に変貌していくこの身体をどうすることも出来ないのか、もう彼女を抱きしめることは出来ないのか…。そして肉体だけでなく精神までもが蹂躙されていく。肉体的には変容しても心は最後まで人間らしさを保ち続けようとするセスがヴェロニカに注ぐ愛。悲しすぎるよぉ〜。

愛する人がもはや人間とは思えない姿に変貌していくのを為すすべもなく、見守るしかないヴェロニカの心情もツラい。彼女ははじめはセスとジャーナリストという立場として付き合ってたと思うんだよね。コレはスクープになるってカンジで。対するセスはヴェロニカにはじめから恋心を抱いてたんじゃないかな。それまで、どうみても人付き合いが苦手そうだった彼がいきなり彼女を自宅兼研究室に誘う。自分の研究に興味を持って欲しいだけじゃない。自分自身にも興味を持って欲しかったんじゃないかなぁ。いきなりピアノを弾いてみせたりするし。ヴェロニカもそのうちに彼を本気で愛するようになるんだけど、愛し始めた時は既に彼は人間ではないものに変化しつつあった。悲しい、悲しすぎる。お互いに心を寄せ合いたいと思っているのに、その時期は決定的にすれ違ってる。クローネンバーグの描く愛は哀しすぎる。決して報われない。

クライマックスでもはや人間とは思えないほどに変貌してしまったセスにヴェロニカが会いにやってくるシーンは涙なくして観れない。そしてラスト。変わり果てた恋人を私なら抱きしめることが出来るだろうか。
1986年/アメリカ/97分/監督:デヴィッド・クローネンバーグ
THE FLY
2008.09.03記

「昆虫は残忍だ」
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