ダークナイト

クリストファー・ノーラン監督による新生バットマン・シリーズ第二弾。最凶の敵ジョーカーの出現により、自らの存在意義を問われるバットマンの葛藤を描く。

ゴッサムシティにジョーカー(ヒース・レジャー)と名乗る最凶の男が現れた。白塗りの顔に裂けた口。犯罪こそが最高のジョークと笑うその男は銀行強盗の一味に紛れ込み、彼らを皆殺しにして大金を奪っていく。バットマン(クリスチャン・ベイル)とジム・ゴードン警部補(ゲイリー・オールドマン)は手を組み、マフィアのマネーロンダリングを請け負う銀行の摘発に成功するが、そんな努力も虚しくゴッサム・シティは日に日に悪に塗れていくばかり。そんな中、1人の救世主が現れる。新任の地方検事のハービー・デント(アーロン・エッカート)。正義感に溢れるデントはバットマンを支持し、徹底的な犯罪撲滅を誓うのだった。バットマンの表の姿であるブルース・ウェインはデントこそがゴッサム・シティを平和に導く次代のヒーローだと確信し、バットマン引退を考える。ブルースはバットマンを引退した時こそ愛するレイチェル(マギー・ギレンホール)と結ばれる時だと信じていた。しかし資金を断たれ、窮地に陥ったマフィアにジョーカーが接近する。「俺がバットマンを殺す」。ジョーカーの情け容赦ないゲームが開始された。良心、正義感、愛。全てをズタズタに引き裂くジョーカーの罠。自らの存在意義を問われるバットマン。彼は正義を貫くことが出来るのか?


152分ですよ。長いですよ。しかも、とことんダークらしい。意を決して観に行く。いやぁ冒頭からスゴイことになってますよ。いきなりジョーカー登場ですよ。そしてミー的にはウィリアム・フィクトナーの登場もウレチイ。なるべく予備知識は入れておくまいと誓ってたので彼がチョイ役とはいえ、出演してるとはさっぱり知らずにビックリですよ。今作ではエラいカッコいい役柄じゃないっすか。まぁ出番は少しだが強烈にカッコいい。うん、いきなり満足。しかし、ホントに暗黒面が満載な作品だな。全然、救われない。バットマンが終始、苦悩している。自警団である彼に心からの声援を送る人はごく僅か。市民が求めているのは光の騎士デント。ミーはそんなバットマンの姿を見るに忍びなくて、観ている途中でたまらず「今は暗黒騎士だけど、いつかはFF4のセシルのように聖騎士パラディンになれるよね!」とK元くんに訴えたら、「ジョブチェンジはナイ」と斬り捨てられマシタ。あ、そうですか。

150分超えは長いと書いたが実はさほど気にならなかった。次から次へと繰り出されるジョーカーの身も凍るジョークにやられっぱなしですよ。「鉛筆がハイ、消えましたッ」にヤラレましたよ。ジャック・ニコルソンのジョーカーの「ペンは剣よりも強しッ」攻撃よりもさらに強烈ですよ。しかし、なんだ。ノーラン監督だからどうにか150分程度で抑えたんじゃないかと思う。もっともっと描きたいけど商業的なことを考えるとどうよ?ってカンジで理性が働いたのではないかと。ノーラン監督はかなりバットマンに入れ込んでいるようで今作の監督を熱望していたとか。その思いが実現して色んなものが迸ったのか、この手の作品にしては長尺だけど、ギリギリ許容範囲の上映時間ではないかと。ピーター・ジャクソンやP・T・アンダーソンが監督だったら軽く3時間超えですよ。まぁピーター・ジャクソンはともかく、PTAの「バットマン」は観たい気はしませんケドね。

あ、定番のように話がそれた。長尺なのはおいといて。色んなところで既に書かれているのでうちのようなエセ映画感想で改めて書くまでもないですがヒース・レジャー。アンタ、何かに取り憑かれてたんじゃないのかと。ジャック・ニコルソンのように既に功成り名を成し遂げた俳優ならいざ知らず。「ブロークバック・マウンテン」でアカデミー主演男優賞にノミネートされたとはいえ、まだまだ若手である彼が今後「ジョーカー俳優」としか見られないかもしれないという危惧を厭わずに全身全霊を傾けてジョーカー役にのめりこんでいたとしか思えない鬼気迫る演技にただただ圧倒されるばかり。久々の悪役の中の悪役。話す度に舌をペロペロと出す仕種にさえ悪寒が走る。充分にお茶目ではあるが一瞬たりとも笑えない。ナース姿をご披露してくれても笑えない。つ〜か意外と似合ってたな。最凶でナース服さえ着こなす悪って。どんだけ無敵なんだ。

ジャック・ニコルソンのジョーカーはまだ多少笑えた。笑ったあとに恐怖のズンドコ、もといドン底に陥れてくれるワケだが多少なりとも愛嬌があった。しかしヒース・レジャー演じるジョーカーには愛嬌のかけらさえナイ。街を、人の心を破壊し尽くすジョーカー。疑心暗鬼、恐怖、憎悪を食らって生きているかのような正に悪そのもの。

そしてそんなジョーカーに自らの存在意義を問われるバットマン。ジョーカーの罠により窮地に陥り、暗黒面に直面させられるバットマン。罠の上に罠を仕掛け徹底的に人の心の奥に眠る暗黒を刺激するジョーカー。バットマンという存在はもはや、ゴッサムシティには不要な存在ではないのか。デントこそがゴッサム・シティを救う光の騎士なのではないか。自ら仮面を脱ぎ、次代のヒーローに街を託すべきではないのか?思い悩むバットマン。正直、この作品はバットマンそのものよりもジョーカーの存在が強烈過ぎて主役が食われちゃってる感は否めないですが、クリスチャン・ベイル演じるバットマン=ブルース・ウェインが非常にサマになっている。常に存在意義に悩み、それでも正義を貫くために身も心もボロボロになりながらも寡黙に街を見守るバットマンを見事に演じてた。そんなバットマンのために協力を惜しまないフォックス(モーガン・フリーマン)の反対を押し切り、禁じ手さえ躊躇うことなく使うバットマン。全ては街のために。悪を絶つ為に。ストイックさがたまらんッ!引き締まった身体に無数の傷跡があるのもたまらんッ!まさかクリスチャン・ベイルに「ぽっぽ〜ッ」と奇声を上げる日がこようとは。KOROちゃんびっくり。

しかしそんなブルースが垣間見せるレイチェルへの恋心だけは理解出来マセン。だって前作にも増してタレ目ですから!しかも老け度も増してますから!いや、別にマギー・ギレンホールはキライじゃないよ。デモ、ちっともキレイに見えないんだよ。まぁノーラン監督の作品でセクシーダイナマイッは出てきたためしがないような。「プレステージ」ではスカジョが出てたが、スゲェおざなりな扱いでしたからね。今作でもヒロインがキレイでないばかりか、とんでもないことになってますよ。ノーラン監督はジョーカー以上にシャレがキツいな。

とにかく冒頭からクライマックスまで目が離せない。爆破につぐ爆破。前作はアクションのキレがいまひとつだったが、今回は素晴らしい。バットモービルもカッコいいだけの造型を捨てた力強いフォルムに唸った。そしてバットポッド。チキショウめ!エラくかっこいいじゃねぇか!今回はアクションも見応えあるじゃねぇか!ヒーローものなのに観終わった後に全くカタルシスはないが、それがこの作品の面白さを損なっているワケではないというところがスゴイ。エンディングの一言に震えマシタよ。

今作ではジョーカーという怪物が何故生まれたのかという点に一切触れられてないのは不満といえば不満だが次回作で掘り下げるつもりだったのではないかと。ヒース・レジャー以上にジョーカーを演じられる俳優がいるかどうかは現時点では判らないけれど、次回作でノーラン監督はどんな決着をつけてくれるのだろうか。
2008年/アメリカ/152分/監督:クリストファー・ノーラン
THE DARK KNIGHT
2008.08.26記

「一番のヒーローは囚人のおっさんだと思う」
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